春のBCは最新の軽量スキーと共に

金沢店です!

1月に白馬で滑りまくったきり、2月に予定していたスキー山行は腸炎により潰してしまい、気付けば3月になってしまいました……。今シーズンはどうにもこうにも雪が少ないようで、滑り手の皆さまには何かと難しいシーズンになったのではないでしょうか。日照時間の増加そして気温の上昇と共に、既に各地の斜面にはグライドクラックが開き始めているようです。気象条件と雪の状態に気をつけながら、残りのシーズン、快適な春スキーを楽しんでいきましょう!

さて、そんな中、私も先日、休日を利用して近郊のエリアで春の陽射しの中スキーを堪能してきました。平日ということもあり、私たちの他に入山者はなく、小鳥たちの声が響く静かな山行となりました。冒頭の写真は下部のアクセス林道を抜けた先に広がる景色です。素晴らしいロケーションですね。この写真だけで場所が分かった方、ぜひ金沢店でコッソリ教えてください(笑)

それにしても、写真でも分かるように既にウェットでルーズな雪があちこちから崩れ始めていますね。ハイクアップ、そして滑走ラインの地形選択には慎重な判断が必要です。

 

午前中の早い時間であれば、特に日射の影響の少ない北面の森の中にはまだ少しソフトで滑りやすい雪も残っています。美しく柔らかな木漏れ日の中をハイクアップするのは気持ちいいですね。

 

次に来る時には絶対にここで焼肉をしようと誓い合った広大な台地です。スキーは雪山での行動スピードが圧倒的に速くなる分、時間に余裕があればのんびりとランチタイムを楽しんだりできるのも魅力の一つですね。今回は……いつも通りのチョコバーです。

 

今シーズンは春スキー向けに少し細めで超軽量な板を新調したのですが、それにあわせてシールもニューモデルを購入してみました。G3 Alpinist+のGLIDEモデルです。今までのAlpinistの先端部にScalaチップと呼ばれていた樹脂製のシートが取り付けられ、特にラッセル時に雪から受ける抵抗を軽減しグライド性能を高めると共に、シール先端からスキーとの間に雪が入り込むのを防止します。

今回はほぼほぼクラストした雪でソフトスノーの上を歩く機会がなかったので効果のほどについては実感をもったコメントをすることができませんが、G3が段階を踏んで全てのシールにこの樹脂シートを導入してきたことからも、これがきちんと機能することは間違いないのでしょう。

AlpinistシリーズのGLIDEとGRIPに関しては今シーズンより新たに欧州製の滑走面が採用されているとのことで、性能の向上にも期待がかかります。個人的には今までノーマルのAlpinistを使用してきたのですが、今回はGLIDEを選択してみました。(半分くらい板との色のマッチングで選んでしまったのはヒミツです) より前方向への滑りが軽く抵抗が少ない分、グリップ力には劣る中上級者向けの毛足ですね。ただ、今回実際に使用してみると、予期していた以上にグリップ力の低下も感じられなかったので、今後メインのシールは足運びの軽くなるGLIDEで十分かもしれません。なかなか調子は良さそうです。

 

ビンディングも今季からのニューモデルです。DynafitやG3、FritschiなどといったメーカーがTECHビンディング界を席巻する中、もしかしたら初めて目にするという方もいらっしゃるかもしれません。これは “PLUM” というフランスのメーカーのビンディングで、このニューモデルは “Pika” と名付けられています。

PLUMはもともと山岳スキーレース用の超軽量ビンディングが得意なブランドであり、その特徴としてはビンディングの主要なパーツに全て削り出しのアルミを使用することで、高剛性かつ高精度な製品を実現していることです。プラスチックパーツをほとんど使用していないので、負荷がかかった際の歪みが皆無で、同じ重量帯の他ブランド製品に比べると非常に高い足元のホールド感が得られます。

私自身、パウダーシーズンには最大開放値が12まであるG3のIONやDynafitの旧モデルTLT Radical FTを開放値10に設定してセンター110mmクラスのスキーに乗っているのですが、今回Pikaの開放値は8程度でも普段と遜色なく板を傾けて踏み込んでいくことができました。近年メジャーブランドに多いヒールのギャップレス(前圧)構造は採用されていませんが、荒れた雪面での嫌な振動もなく、ブーツホールドは十分に実戦レベルです。

重量はブレーキレスで280g、ブレーキは別売で85gです。ちょうど同じくブレーキレスのTLT Speed / Speedfit (285g)と同じくらいですね。開放値はラテラル、フロンタル共に4~10の範囲で設定できます。クライミングサポートは1段のみですが、個人的にはこのスキーを主に使用する春の季節、クラストした急斜面ではスキークランポンを使用するので、いずれにせよ2段目を使用することは少ないだろうと踏んで問題なしとしました。(スキークランポンは、一部の製品を除き2段目のクライミングサポートを使用すると十分に踏み込むことができず必要な効果を発揮できません) ヒールピンも、軽量ビンディングにありがちなUバーではなくブーツインサートの摩耗を防ぐロールピンなのが嬉しいポイントです。

唯一、ブレーキのロック操作だけはマニュアルなので、他ブランドのビンディングに慣れた方は、その操作を忘れないように注意してください。

もちろん金沢店にも在庫あり。気になる方は、是非実機を触りにご来店ください。

 

さて、これだけビンディングのことについて書いてしまいましたので、せっかくの機会ということで山道具屋らしく、もう少し技術的な話に触れておきましょう。

今回は、新型ビンディングのバックカントリーデビュー戦ということもあり(事前にゲレンデテストは終えていました)、ビンディングを調整するための全ての工具をザックに忍ばせていきました。奥深い雪山でのメカトラブルは致命的です。皆さんも、可能な限りご自身でご使用のビンディングについて詳しく知り、また簡単な調整くらいはフィールドでできるように工具を持ち歩くことをオススメします。事前に分からない点があれば、ご自身で解決しようとせず、是非私たちショップスタッフにご相談ください。

さて、Pikaをメンテナンスするために必要な工具は、主に上の写真の3本です。左からポジドライブ3番、トルクス20番、マイナスドライバーです。厳密に言うと、Pikaの調整にはフロンタル開放値の設定にフィリップス、ブレーキの着脱にヘックスも必要なのですが、これらはビンディングを完全に分解でもしない限りフィールドでは必要ないので省略しました。この辺りは、G3のビンディングであればポジドライブ3番が1本あれば全て調整できてしまうので便利ですね。

問題はこのポジドライブです。近年では欧州製の家具ブランドなどが一般化してきたこともあってご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、これは従来日本国内で普及してきたプラスドライバー(フィリップス)とは、形状が似ているものの全く異なる規格です。

 

左がフィリップス、右がポジドライブです。この違い、分かりますか?

ポジドライブは、フィリップスに比べて滑りが少なく、大きなトルクを加えた際にもドライバーの刃先が抜けにくくなっているので、より “ナメ” にくい規格なのです。スキービンディングにおいても、その性能の高さから採用されているのは多くがこのポジドライブです。ただし、これを知らずに手近にあるフィリップス等のいわゆる “プラス” ドライバーでポジドライブのネジを回そうとしてしまうと、それこそうまく噛み合わずにネジ頭を潰してしまうことになりかねません。ネジ側にも、それがフィリップスなのかポジドライブなのかは明確に区別できるような意匠がありますので、必ず事前に確認した上で、正しい工具を使うようにしましょう。

ポジドライブ自体、一般的には入手するのも容易ではないのですが、なんとなんとG3からポジドライブのドライバーやビット、ミニビット等が発売されています。来季よりオクトス金沢店でも通常在庫として取り扱う予定ですので、是非チェックしてみてください。

 

その他にも、バックカントリーシーンで役立つアイテムを幾つか。

まずはSUUNTOのGPSウォッチ。もうこれは欠かせません。右は以前使用していたTraverse、左が現在メインで使用しているSpartan Ultraです。

ロングツアー等では事前にルートを設定してナビゲーションに使用することもありますが、「登って、同じラインを降りてくる」パターンであれば、GPSを現地で “ブレッドクラム” モードに設定するだけでホワイトアウトの中でも迷わずにスキーで下山してくることが可能です。

この “ブレッドクラム” という言葉、聞き慣れませんよね。(フロントエンドのWEBエンジニアの方なんかはご存知のことでしょう) これは直訳すると “パンくず” のことであり、具体的にはユーザーが今まで歩いてきた場所を記録したログ、軌跡を表示するモードのことです。歩きながらパンくずを落としていって帰り道の目印にするイメージですね。もちろん専用のGPS端末でも同様のことは可能ですし、私も本当にシビアな場面ではGPS端末と紙の地図を併用しますが、GPSウォッチ最大の魅力は、そのログが手首で確認できてしまう点です。ポーチやポケットから端末を引っ張り出す必要もなく、ただただ手首を持ち上げればOK。斜度が緩く、スピードが出ていなければ滑走しながらでも進行方向を確認できてしまいます。その都度、もうちょっと右、もうちょっと左、と修正しながら滑れます。

今回も地形的な特徴や目標物に乏しい広大な台地状の地形を滑って下山してきましたが、手首のSUUNTOを常時確認しながら滑走することで、全く迷いなく完璧なラインで林道まで滑りきることができました。この使い方、オススメですよ!

 

SUUNTOつながりで、もうひとつ。これは私が海外の登山学校に通っていた頃からずっと愛用しているSUUNTOのミラーコンパス、MC-2 GLOBALです。登山用のコンパスといえば国内ではプレートコンパスが一般的ですが、より正確なナビゲーションをしようとするとミラーコンパス等の高性能なモデルが必須です。ものによっては1万円近い価格となり手が出しづらいかもしれませんが、がっつり雪山で遊ぶ方は持っておいて損はありません。生きて帰るための投資です。

それにしてもこのコンパス、なぜMC-2 “GLOBAL” なのでしょう。実は多くの廉価帯のコンパスは、北半球用、もしくは南半球用に作られており、その反対側では正常に動作しないのです。グローバルモデルであれば、北半球にいようが南半球にいようが使用できます。国内で使用する分には北半球用で十分ですが、地球上を遊びつくしたいという方は是非グローバルモデルをどうぞ。

さて、上の写真、よく見ると、ベアリングの方位目盛と中心の矢印の向きがズレているのですが、分かりますか?実はこれ、コンパス側で磁北偏差が補正できちゃうのです。裏面のネジでいつでも調整可能なので、山行前に該当する山域の偏差角を調べてチョチョイと調整すれば準備OKです。地図に磁北線を引く、あの面倒な作業から解放されます。

また、南北を示す磁針とは別に右方向を向いている黒い矢印状の針、これも雪山では重宝する機能の一つ、傾斜計です。雪崩について少しばかり学習したことのある方であれば、そのリスクマネジメントには地形の利用、とりわけ傾斜の確認が非常に大きな要素であることをご存知かと思います。コンパスであれば常に取り出しやすいところに携帯していますし、これに傾斜計が内蔵されていればそれこそいつでも、微妙な斜度の斜面を確認し安全な地形を利用した行動に繋げることができます。

あまり講習会等でも触れられることのない高性能なハイエンドコンパス、山行スタイルとニーズに応じて選んでみてはいかがでしょうか。

 

おまけです(笑)

今やバックカントリーシーンで定番?となりつつあるMSRのディッシュブラシ(!)/スクレイパーと、G3シールワックスに付属するスクレイパーです。シールや滑走面の氷結対策に、下山後の板の雪落としに。軽量コンパクトなので、常にポケットの中で持ち歩きたい製品です。

 

山行の翌日からは雨(!)予報が出ており、時おり薄く雲がかかって霞むことも。春らしいクラストとザラメ雪のミックスを、のんびりクルージングしながら下山してきました。心地良い満足感に包まれた山行でした。

恐らく次の金沢店の山行レポートは、遠い北の地からのお届けになると思います。お楽しみに!

 

金沢店 / 西村