最果てのパウダーを求めて

利尻岳。北の海に美しい円錐形をもって浮かぶ孤峰、その大斜面をスキーで滑降することは私がバックカントリーを始めた頃からの夢の一つでした。

今シーズン、ようやくその全てのタイミングが合致し、また旅を共にする仲間も増えたことで長年に渡り温め続けてきた計画を実行に移すことができました。10日間に及ぶ北の大地そして孤島へのスキートリップ、その全容をご覧ください。

 

 

旅のはじまりは利尻へ向かう前の前哨戦、上富良野、十勝連峰から。

ここでのベースとなる白銀荘までは、冬の北海道での車の運転に自信がなくとも公共交通機関を利用して旭川市内より2時間程度でアクセスが可能なため、ニセコと並んで初めて北海道でのスキーに挑むには最適なエリアの一つです。白銀荘は冬季でも素泊りの宿泊が可能で夜も暖かく快適に過ごすことができます。

 

 

視界が得られない降雪時や風の影響が強い時には、林間でのハイクアップ、滑走が可能な三段山の方が良いコンディションを得られることが多いように思います。ある年には、112mmリバースキャンバーのパウダースキーをもってしても膝上まで新雪に足が沈み、素晴らしいながらもなかなかに大変な滑走を強いられたこともありました。

山体そのものはコンパクトなので今回のように軽量スキーを使用して踏み固められたトレースを追えば、足の速い人であれば1時間程度で山頂付近まで登り、一気に滑り降りてくることができるでしょう。

 

 

今回のように運よく降雪後の好天に恵まれたならば、北海道でのスキーの魅力を存分に味わえる前十勝の大斜面が欠かせません。地平線の先まで広がる白い大地、そして足元から目の前に広がるドライパウダー。一度このスケールを味わってしまうと、その誘惑に抗うことは難しく、足しげく通う他なくなるのです。

ここは風の影響が強く、降雪後2日も経てば雪が再分配され硬化したクラスト斜面と化してしまうことも多いのですが、今回は幸いにして前夜まで降雪が続いたこともあり素晴らしく軽快なパウダースキーを堪能することができました。

 

 

羽のように軽くブーツトップまでの浅い積雪は、利尻岳での滑走を見込んで選択した細めのスキーでも板が良く走り、豪快にスプレーを巻き上げながらのダイナミックなターンが刻めます。

スピードとスケール、そしてロケーション。この日は終始、南に富良野岳を眺めながらの快適なスキーライドとなりました。

少しですが、滑走の様子を動画に収めてもらったのでご覧ください。

 

 

あまりに楽しくて奇声を発している上、途中で氷にエッジを引っ掛けてバランスを崩しておりますが見逃してやってください(笑)

 

 

上富良野での快適な3日間の後、さらに北へ向かいます。早朝の旭川からローカル線でおよそ6時間、最果ての稚内へ向かいます。

 

 

連日のスキーと長距離移動、北海道での旅は移動時間を効果的に休息に充てなければ体力がもちません。移動も楽ではありませんが、何をするでもない時間もまたローカルな旅の魅力の一つです。

 

 

稚内から激しく揺れるフェリーで約2時間、辿り着いた利尻島は、猛吹雪の真只中にありました。島を1周する海岸線の道路には雪煙が這い、風上に向かっては顔を上げて歩けないほどです。北の海を渡ってくる風の影響を強く受ける冬の利尻の自然の過酷さを、上陸初日から思い知らされることとなりました。

荒れる深碧色の海と雪に霞む海岸台地。さながら冬のスコットランドを思わせるような荒涼とした風景が広がります。

 

 

これだけの荒天の中では当然のことながら山に向かうこともできず、初日はただひたすらに宿の薪ストーブの周りで静かに時間を過ごし天候の回復を待つこととなりました。

旅や遠征の中では、待ち方の上手な人ほど山と上手く向き合うことができるように思います。急がずに、待つことを楽しむこと。考えたところでどうにもならない時に “考えない” ことができる人ほど、いざという時に身体と心の体力を温存できるのです。

 

 

島に複数点在するゲレンデで少しばかりのパウダー滑走を試みたりもしました。ゲレンデとはいってもオープン斜面が一つあるだけでリフトもなく、トウラインは存在するものの未稼働です。滑るためには自らの足でハイクアップしなければなりません。

 

 

耐え忍ぶこと2日、遂にその日がやってきました。この日は朝から時おり青空が覗き、前夜までの降雪もあって素晴らしいコンディションを予感させる幕開けとなりました。

 

 

数時間のハイクアップの後、ついに求め続けていたロケーションにやってきました。あちこちに木立もまばらなオープン斜面が広がり、その全てが滑走可能なラインです。

 

 

ちょうど前日のフェリーが荒天のため欠航していたこともあり、この日はフル・ラッセルとの引き換えにノートラックの美しい雪面に一番乗りすることができました。スキーヤーの皆さまなら、この魅力は十分すぎるほどお分かりいただけるかと思います。

 

 

山頂直下の氷化した尾根筋に用はありません。今回は利尻岳の肩ともいえる長官山の直下、北西側の沢に広がる斜面にドロップしました。恐らく、アクセス等の容易さも含めて利尻ではここが最もメジャーといえる滑走ラインでしょう。

沢の最上部は傾斜もあり雪崩を警戒すべき地形ですが、スプリングコンディションで雪が締まってくれば気持ちの良いザラメ滑走が楽しめるはずです。

島の海岸線と広がる海、そして遠く礼文島を眺めながらのロングランは “最高” 以外の言葉が思いつきません。しかもこの日は激軽のパウダー。写真のスプレーを見ればご想像いただけるかとは思いますが、これ以上は望むことのできない1日となりました。

…もう少し太い板を持参していても良かったですね(笑)

 

 

あまりの素晴らしさに天気待ちの間も思わず笑みがこぼれます。

 

 

そして下山後のこの満足気な表情!下山すれば即温泉ダイブができるのも利尻の良いところですね。

同行してくれた皆もそれぞれに楽しんでもらえたようで企画者としては嬉しい限りです。

さてさて、参加メンバーには今回が北海道スキーのデビュー戦となった方も多かったのですが、最初からこれだけ素晴らしいコンディションを引き当ててしまうと来年以降のハードルがまた上がってしまいますね。また素晴らしいスキーラインを求めて旅に出ましょう!

 

 

最高のスキー体験の翌日、帰還の日は再びの大荒れ。今回は幸運に恵まれました。きっとまた、利尻へは舞い戻ることになるでしょう。決してアクセスが容易な場所ではありませんが、時間をかけて旅をするだけの価値がある、そんな場所だと思います。

利尻岳でのスキーはむしろ、これから天候そして雪の安定する4月から5月にかけてがベストシーズンです。興味のある方は是非まとまった日数をかけて島へのスキートリップに挑んでみてください。