氷を訪ねて3000m

あけましておめでとうございます。オクトス金沢店です。

富山店スタッフによる槍ヶ岳西稜登攀記、なかなか壮絶でしたね。あの子槍、孫槍が、厳冬期にはあんな姿に……!未読の方は、是非ご一読を。

さて、私はというと槍ヶ岳に関しては昨冬に2度、そして今夏にも登っていることもあり(そしてなんだかんだ今冬も2度の予定が……)、年末くらいは天気の良いうちに気楽で楽しい山登りをということで、年末寒波到来前に駆け込みで八ヶ岳と甲斐駒ヶ岳をハシゴして参りました。

 


 

まずは八ヶ岳。日本海側の北アルプス等に比べれば相当に天候の安定している八ヶ岳ですが、そこは私、吹雪男です。見事に南岸低気圧を引き当ててしまいました。

初日は赤岳鉱泉にベースキャンプを設営し、大荒れとなった2日目に数年ぶりとなる横岳西壁の石尊稜へと向かいました。八ヶ岳においては、阿弥陀岳の北稜や赤岳の主稜を卒業した後のステップアップとしてちょうどいいレベルのルートではないでしょうか。下部岩壁、初手の細かい数メートルが核心かと思います。

 

パートナー撮影:2P目にロープを伸ばす。ダブルアックスが楽しいルート

 

実気温はそこまで低くはなかったのですが、常に西風に晒される八ヶ岳の登攀では体感気温はガンガン下がります。ストップ&ゴーが続くクライミングということもあり、今回は中綿入りのミッドレイヤーを2枚重ねにして対応しました。

また今回、石尊稜ではLa Sportivaの新しいテクニカルウィンターブーツ、G5をテストしてみたのですが、これが驚くほどに軽く、そして暖かく、足を雪の中に突っ込み続けるビレイの間も一度として冷えを感じることはありませんでした。同じくG5を使用していても流石に槍ヶ岳では冷えがあったようですので、個人差もあり評価の難しい保温性をただの一言で手放しに称賛することはできませんが、間違いなく一定以上の水準にはあると言って差し支えないでしょう。

 

上部岩壁を登りきり、雪の斜面で登攀を終了。G5は暖かく快適だった

 

クランポンは、八ヶ岳、甲斐駒ともにアイス&アルパインとはいえ難度は低く、またクライミング前後の雪上歩行が長くなることも考慮してPETZLのSARKENをチョイス。プレシーズンのストラクチャが細かい氷には、案外デュアルポイントの方が安定して立ち込めたりもします。また、ロープはルートの難易度から墜落リスクも高くないと判断し、EDELRIDの8.9mmシングル、Swift Pro Dryを使用しました。軽量、かつしなやかで凍結もなく、扱いに一定以上の経験は要しますが個人的にお気に入りの細径ロープです。

そして最終日、下山前にサクッと裏同心ルンゼを。

 

パートナー撮影:氷と氷を繋ぐ歩行セクションで、素早くロープを処理

 

朝の早い時間帯はまだガスに覆われていましたが、前日とは異なりルンゼの中ですので格段に快適です。この日も多くのパーティが同ルートに入っていましたが、どのグループも実力者揃いのようで、それぞれにスピーディにアイスセクションを通過し、目立った渋滞はなく流れも順調でした。

アイス&アルパインクライミングでは、単なるクライミング能力以上に、ラインを見出す能力、プロテクションの設置、支点の構築やロープ捌き等、総合的なスキルがスピードと安全性に直結してきます。経験を積んでノウハウを蓄積し、動きを洗練させていきましょう!

 

BLITZ 28:軽量にして必要十分な最高のサミットパック

 

裏同心ルンゼを登り切って大同心稜に抜ける頃には、ガスも切れて青空の下に大迫力の大同心と小同心が姿を現しました。前日の吹雪もあって岩肌には真っ白に氷雪が張り付き、さながらスコットランドの冬壁のような美しさです。こんな日にこのまま小同心クラックでも駆け上がることができれば…と後髪を引かれながら、下山時刻もありますので急いで大同心稜を下山しました。

 


 

中1日の休養日を挟んで、次は甲斐駒ヶ岳、黄蓮谷右俣です。

初日は大きなザックを背負って黒戸尾根をアプローチし、五合跡地にベースを設営しました。

 

黒戸尾根下部は積雪も少ないが、凍結箇所には注意したい

 

例年通り、黒戸山にさしかかるまでは積雪も皆無で、結局初日はアイゼンを装着せずじまいでした。しかしながら、日当たりの悪いトラバース箇所等では土の地面と見分けのつきにくい氷結箇所も多くあり、こういった局面では是非ともチェーンアイゼンを使用したいところです。特に下山時には、12本爪アイゼンを着けたまま岩や土の上を歩くのにも慣れが必要ですので、チェーンアイゼンの威力は倍増します。

さて、風の通り道となる五合目でシェルターを揺すられながら夜を明かし、翌朝は長時間行動を見越して暗いうちにヘッドランプを装着し行動を開始します。

今回、黄蓮谷への下降路には六丈沢を選択しました。途中、長くはありませんがナメ状のアイスセクションが出てきますので、ダウンクライムに恐怖を感じるようでしたらロープを出しての懸垂下降が必要になります。

そうこうして、夜が明けるころに黄蓮谷の沢床に到着しました。……が、1週間前に仕入れていた情報より、明らかに積雪が増しています。左俣へ転進すればまだ積雪も少なく快適なアイスクライミングを楽しめたのかもしれませんが、右俣という想定のもとにギリギリまでスクリューの数を削ってしまっていたためそれも叶わず、嫌な予感を感じつつも、序盤、辛うじて残っている氷をパートナーと各々フリーで越えていきます。

……こういう時に、最新のアルミスクリューを揃えていれば重量増を気にすることなく十分な数のプロテクションをザックに放り込んでおけるんですよね。近々、手持ちのスクリューの何割かはアルミスクリューにアップデートしたいと思います。

 

先行して登るパートナーを撮影。安定した登り

 

今度は逆に自ら先行して登り、滝の途中で体勢を安定させ撮影する

 

……はい、以後、ラッセル地獄となりましたため、写真ありません!

1週間おそかった!氷の回廊はどこへやら、時にベストラインを外し吹きだまりに突っ込めば腰の上までもぐってしまうような中で延々とラッセルを続け、なんとか昼過ぎには頂上稜線へと抜けることができました。結局、ロープやギアは一度もザックから出されることなく、ただただ担ぎ上げただけになってしまいました。泣けてきますね。

五合ベースまで下り、もう1泊するだけの食糧や燃料は持ち合わせていたのですが、翌日には年末寒波の到来が予報されており、甲斐駒でも既に雪がちらつき始めていたこともあって、パートナーと話し合い強行軍で当日中に下山してしまうことにしました。

刀利天狗を通過する頃には日も落ちて真っ暗に。あとはヘッドランプを装着し、目の前に広がる街の灯りを目指してひたすらに歩を進めるだけです (黒戸尾根下部は踏み跡が複数入り乱れる箇所もあり、夜間行動、特に下山は推奨しません。地形が頭に叩き込まれていない限り、明るくなってからの行動がベターです)

トータルで15時間行動。1日で1100mほど登り、2500mほど下った計算になるでしょうか。目指していたはずの気楽で楽しい登山とやらは、なんだかんだの吹雪とラッセルで、多少は雪山登山らしい雪山登山となってしまったように思います。

 


 

さて、とりあえず年末は最低限のアイスも楽しめたことですし、バックカントリースキーに注力する金沢店スタッフとしては、そろそろ個人所有のスキーにもワックスをかけて頭の中を「滑走」モードに変換していかないといけません。登りも、降りも。様々な道具を駆使して、オールラウンドにフィールドを遊びまわりたいですね!2019年もセーフティ・ファーストで楽しんでいきましょう!

 

金沢店 / WEBSHOP 西村

 


 

[スタッフのイチオシ!]

 

  • Black Diamond BLITZ 28

今回の2本の山行は共にベースキャンプ&サミットスタイルでしたので、ベースキャンプまではBlack DiamondのMission 75、ベースキャンプからの登攀にはBLITZ 28を使用しました。444gと超軽量で、ワンデイの冬期登攀に必要なロープ、ギア、ビレイパーカや予備グローブ、テルモスと食糧その他を詰め込めるジャストサイズです。背面フレームがないのでアプローチでのパッキングには多少のコツが必要ですが、その分クライミング時のダイナミックな動きにも追従してくれます。パッカブルではありませんが、小さく丸めて収納できますのでベースまでの運搬も苦になりません。このクラスの軽量サミットパックで現代のアイスツールを2本きちんと保持できるモデルは希少な上、ワンアクションで開閉できる開口部も過酷な環境下では有難い仕様です。

  • Therm-A-Rest NeoAir XTherm

なんだかんだで、冬はこのマットレスに落ち着くのではないでしょうか。レギュラーサイズで430gと軽量でR値なんと5.7!圧倒的です。断熱性を表す指標であるR値ではこれを上回るモデルも複数ありますが、重量や収納サイズ、取扱いの面でXThermが最良のバランスを保っているように感じます。このマットレスを使用して6年、底冷えを感じたことがありません。金沢店にも在庫ございます。お早めにどうぞ。

  • JetBoil MiniMo

最近マイブームな山メシは、クスクスです。クスクスは北アフリカ発祥の世界最小のパスタで、山ではお湯でもどすことでアルファ米より格段に素早く調理することができます。開口部の広いMiniMoで雪を溶かして必要量の熱湯を沸かし、そこに規定量のクスクスを投入、あとはお好みの味付けをすればものの数分で食べやすく満腹感あるディナーの完成です。味付けには、フリーズドライのトマトスープやオイル系の小分けパスタソースが便利です。あまり見ばえがよろしくありませんでしたので写真の掲載は控えますが、今回はトマトチキン煮風やバジリコ風のクスクスを楽しみました。自宅の冷蔵庫内に置き忘れたチーズの存在が悔やまれます。……あれ?MiniMoの紹介……?